普通、時計の文字盤の表面には、保護用のクリアラッカーが吹かれる。メーカーによってまちまちだが、その厚みは10〜20ミクロン。この薄い膜が、湿気や紫外線から文字盤を保護するのだ。
しかし経年変化を意図的に起こさせるため、フランク ミュラーはカサブランカの文字盤から、クリア処理を省いてしまった(現行モデルは薄く吹かれているようだ)。
新品 フランク・ミュラーうがった見方をすると、処理を省いた理由は、当時のクリア塗料では薄くて丈夫な保護膜を施せなかったため。厚く吹けば文字盤を保護できるが、文字盤からは繊細なニュアンスが失われる。おそらくその理由もあって、思い切って処理を省いたのだろうが、経年変化が楽しめる文字盤という打ち出しは、好事家の心を掴むには十分だった。筆者の知る限り、変化を楽しめる文字盤は、後にも先にもカサブランカしかない。
フランク ミュラーは色そのものにも工夫を凝らした。基本的に、カサブランカのダイアルカラーはホワイト、ブラック、そしてサーモンピンクである。白と黒はさほどでもないが、ピンクでは色のばらつきが大きい。そもそもピンクは発色が安定しにくい色だが、それ以上に、フランク ミュラーが細かなモディファイを加えたためでもあった。これもまた〝あえて狙った〟ものだろう。
いくつかの例を挙げたい。サーモンピンク+ホワイトインデックスの文字盤は、ラッカーを吹く前に下地に銀もしくはロジウムメッキを施している。そのため文字盤の色は明るく、角度によってはラメ調に見える。対してサーモンブルーのインデックスは、下地のメッキを金に改めている。そのため文字盤の色は少し深く見える。
フランク・ミュラー | 腕時計ロットごとに変えているのではなく、インデックスの色によって下地処理を変えたわけだ。こういった繊細なモディファイ、または意図的なイレギュラーの多さを思えば、いわゆる〝初期フランク〟が愛好家から熱狂的に支持された理由も分かる。